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こんにちは。
あたしのなまえは、マヤ。
マヤ・リベスです。
としは、4さい。
まだ、ひとりっ子です。
おとうさんのなまえは、ルーサー。
しょうぼうたいの、たいちょうさんをしています。
いっつもお仕事がいそがしくて、何日もあえないこともあります。
だけど、あたしにはとってもやさしくてあったかいおとうさんです。
だけど、いっしょには寝られません。
ねぞうがわるくて、かならずよなかにあたしをベットからおし出すからです。
いちどそれで、あたしがかぜをひいて。
おかあさんに引っぱたかれたおとうさんは、ベッドがべつになりました。
よる、ベットにむかうおとうさんのせなかは、いつもさびしげです。
でも、ここはしんぼうです。
あたしも、わが身がたいせつですから。
おかあさんのなまえは、イーダ。
おしごとは、よくわかりません。
まだあたしがちいさいので、ちゃんと"ふっき”はしてないそうです。
なやんでいるこどもをあいてにする、たいせつなおしごとなんだそうです。
よくおしごとのこうはいさんが家にきて、おかあさんにアドバイスをもらって
げんきになるのを見ます。
だけど、あたしにはよくわかりません。
わるいことをしたおとうさんを引っぱたくときのおかあさんは、おにです。
かおもこえも、おにです。
あたしにも、たまにおにになります。
ごはんのすききらいをしたときのおにが、いちばん怖いです。
そんなおかあさんでもりっぱにやれるおしごとって、どんなのかなあ。
はやくしりたいです。
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おかあさんのじっかは、おおきなレストランです。
おじいちゃんとおばあちゃんが、けいえいしています。
おかあさんには、きょうだいが下にふたりいます。
すぐ下のおばちゃんのなまえは、レオノ。
しゅっぱんしゃの、えいぎょうなんだそうです。
かいしゃのうわやくの、おかねもちとけっこんして。
きょねん、りこんしたそうです。
けっこんしてしごとをやめたけど、りこんしてふっきしたということです。
おなじかいしゃにはいられないから、べつのしゅっぱんしゃをまわってまた
しゅうしょくしなおしたんだって。
むずかしくて、あたしにはよくわかりません。
だけどりこんする前、おかあさんにぐちぐちとくだをまいていたときのかおは
よくおぼえてます。
「あんな男に引っ掛かっちゃダメよマヤちゃん。…ちょっと聞いてる!?」
あたしも、よくからまれました。
だけど、怖いというかんじはしませんでした。
むしろ、おとなのひあいというのがひしひしとつたわってきました。
なぐさめのことばを知らないじぶんが、すこしもどかしかったです。
そしておかあさんのおとうと、つまりあたしのおじちゃんが、おじいちゃんや
おばあちゃんといっしょにレストランでくらしています。
なまえは、カル。
おりょうりがとくいで、おみせをつぐしゅぎょうをしています。
とってもやさしくて、いいおじちゃんです。
だけど、かげがうすいのがけってんです。
あそびにいって、かえるまできがつかなかったことが3かいほどありました。
どのときにも、おじちゃんはちゃんとそこにいたそうです。
かおもあわせたはずだとでんわでひっしに言いはってましたが、あたしには
おぼえがありませんでした。
「あんたは接客業より、企業スパイの方が向いてる。」
しんねんのあつまりでレオノおばちゃんにまがおでいわれたおじちゃんは、
おさけによったふりをしてほんきでないていました。
なぐさめのことばを知らないじぶんが、あのときももどかしかったです。
レオノおばちゃんはいいひとだけど、えんりょがないのがけってんです。
けっして、怖いひとではないんだけど。
そう。
あたしにとって、怖いのはレオノおばちゃんじゃありません。
あのひ。
あたしがあったのは、ほんとに怖いおばちゃんでした。
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めずらしくまとまったおやすみがとれたおとうさんは、そのさいごのひに
おかあさんとふたりででかけることになりました。
あたしはそのあいだ、レストランにあずけられることになったんです。
「夜には帰るから。あんまり甘いもの食べさせないでね。」
「はいはい。じゃ気をつけて。楽しんでらっしゃい。」
おばあちゃんとそんなことばをかわし、おとうさんとおかあさんはうでをくみ
いそいそとさっていきました。
「さあてマヤちゃん。おやつたべる?」
もちろん、ことわりました。
たったいま、あまいものはたべさせるなとおかあさんがいったのに。
まごにあまいのは、どこのせかいでもおなじみたいです。
あたしは、ばれたときのおにがこわいので、ちゃんとせんびきをします。
ところで、おじちゃんは?
「ああ、カルなら、ちょっと急な買い出しがあってね。市場に行ってるの。」
ほんとに?
「ええ。もうちょっとかかるかなぁ。…何か用だった?」
ふしぎそうなおばあちゃんのといかけを、あたしはわらってながしました。
とりあえず、かくにんしときたかっただけ。
おじちゃんが、まちがいなくいないということを。
いてもきづかなかったら、あとのフォローがたいへんだからです。
えいぎょうさいかいするよるのじかんはまだ少しさきなので、おみせのなかは
とってもしずかでした。
ちゅうぼうのおととにおい、それにあたたかいひざしで、あたしはうととと
まどろんでいました。
そのとき、ふいにいりぐちのとびらがひらき。
ひとりのじょせいが、はいってきたんです。
まえに1かいだけあったことのある、カルおじちゃんのかのじょでした。
「あら、リノちゃん。いらっしゃい!」
ちょうぼをつけていたおばあちゃんは、あかるいこえででむかえました。
リノさんも、えがおであいさつをかえしました。
「こんにちはおばさん。今日は…カルは?」
「あ、それがねえ。急な買い出しがあって、出ちゃってるのよ。ゴメンね。」
「いいえ。それで、どのくらいで帰ってくるんですか?」
「もうちょっとかかるかな?まあ、上がってゆっくり待っててね。」
「じゃあ、失礼しますね。」
ことばをかわしていたリノさんは、そこであたしにきづきました。
そのしせんをおったおばあちゃんが、えがおであたしをしょうかいしました。
「カルの姪っ子のマヤちゃんよ。大きくなったでしょ。」
「え、あのマヤちゃん?わー…ビックリ!こんにちは!」
「ほら、ごあいさつして。」
うながされたあたしは、きちんとひざをそろえてむきなおりました。
「こんにちは、リノおねえちゃん。」
「はい、こんにちは〜。」
えがおの、とってもすてきなおねえちゃんでした。
すくなくとも、そのときは。
「そうだリノちゃん。せっかくだから、上でマヤと一緒に遊んできたら?」
「え、いいんですか?」
「ええもちろん。ここにいても退屈でしょうし…よかったらお願いね。」
「はい!」
げんきよくこたえたリノさんの、そのよこがお。
そこにうかんだひょうじょうに、あたしはすこしけおされました。
なんとなく、ききせまるものをかんじたから。
「じゃ、いこうかマヤちゃん。」
そういっててをにぎられたとき、あたしはふいにおもいあたりました。
この、リノさんのあやういえがお。
これはまちがいなく、おとうさんあいてにおにとなるすんぜんのおかあさんと
おなじえがおだと。
きけんをかんじたあたしは、いすのうえでみをかたくしました。
しかし、おばあちゃんはなんにもきづかないようすであたしにいいました。
「さあさあ、遊んでもらってらっしゃい。あとでお茶持っていくからね。」
そういわれたら、いかないわけにはいきません。
あいかわらず、リノさんはきけんなえがおのままであたしのてをひきます。
ぶじでいられるだろうか。
そのときのきもちは、おばあちゃんにはわかるはずもありませんでした。
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レストランの2かいには、いくつかへやがあります。
いちばんてまえが、カルおじちゃんのへや。そのとなりが、いまはあいている
もとレオノおばちゃんのへやです。
ここはいま、みんながくつろぐスペースになっています。
あたしをその中に入らせたリノさんは、いったんしめたドアを少しだけあけて
そとをうかがいました。
ろうかとかいだんをキョロキョロとねんいりにみまわしているのは、どうやら
だれもこないことをたしかめているようでした。
そのせなかがあからさまにあやしくて、あたしはにげだしたいしょうどうに
かられました。でも、いりぐちがふさがれててどうにもできない。
ガチャッとドアをしめたリノさんは、こんどはまどのほうへとむかいました。
あけっぱなしになっていたまどからまたキョロキョロとそとをかくにんして、
これもガチャリとしめてしまいました。
みっしつに、2人きりです。
あたしは、いよいよきけんをかんじはじめていました。
このおねえちゃんは、いったいあたしをどうするつもりなんだろうと。
『立てこもり犯人の説得には、まず刺激しないことが第一である。』
まえにおとうさんがみていたテレビで、たしかそんなことを言っていたのが、
あたまをよぎりました。
ここは、なんとかせっとくしよう。
そうおもったあたしは、せいいっぱいのえがおをうかべました。
しげきしないように…
「…い、いいおてんきだね、リノおねえちゃん。」
こえがふるえるのをなんとかこらえ、あたしはあかるくいってみました。
とたんに、ずっとちんもくしていたリノさんがパッとこっちをみたんです。
そのかおもまた、なんともひょうげんしがたいものでした。
わらってるんはずだけど、さっきがただよっている。らんらんとひかる目は、
立ちすくむあたしをじっとみすえていました。
つづいてなにか、きのきいたことをいおうとしたとき。
リノさんは、ふいにあたしにあゆみよりました。
ぐっとあたしにかおをちかづけ、ぶきみなえみをうかべます。
すこしのあいだ、おもいちんもくがありました。
その、ちょくご。
「…あたしのことは……ねえ、マヤちゃん。」
かんでふくめるように、リノさんはゆっくりとあたしにいいました。
.....
「リノおばちゃんと呼びなさい。いいわね?」
「えっ、だ、だってそれは…」
このとしのじょせいに、いきなり「おばちゃん」なんてこえをかけるのは
いくらなんでもしつれいだと、あたしなりにかんがえていたから。
ことばのいみがわからず、あたしはすこしみをひこうとしました。
と、そのとき。
ふいにさゆうからにゅっとのびてきたリノさんのてが、あたしのほっぺたを
はさみこみました。
べつにいたくはないけれど、まるで万力でこていされたみたいなパワーです。
あたしのかおをがっちりとはさんだまま、リノさんはさらにじぶんのかおを
こっちにちかづけてきました。
わらってはいるけど、きけんなひょうじょうをうかべて。
「いいからホラ、言ってみなさいってば。できるでしよ?ねえマヤちゃん。」
しげきしちゃだめた!
そうおもったあたしは、なんとかくちをひらきました。
「…お、おばちゃん…」
とたんに、リノさんはにっこりとわらいました。
あいかわらず、あたしのかおははさんだままだったけど。それでも、さっきが
ぬけたのはかんじとれました。
「そうそう。それでいいのよ〜。」
そういったリノさんのめに、またあやしいひかりがやどりました。
「じゃあ、こんどは『リノおばちゃん』。ほら、言ってみて。」
「リ、リノおばちゃん。」
「そうそうそう!ほらもう1回!!」
「リノ…おばちゃーん。」
「いいわね〜その響き。ほら、もっと言って!」
いわれるままに、あたしはなんどもくりかえしました。
そのたび、リノさんはとってもうれしそうにわらったっけ。
やっとはなしてくれたリノおばちゃんに、あたしはこわごわきいてみました。
「…あの、リノ…おばちゃん。」
「んー?なあに?」
「まだそんなとしじゃないのに…どうしておばちゃんなの?」
「んふふふふ…」
きみのわるいわらいごえをあげ、リノおばちゃんはまたかおをよせました。
「練習よ、練習。」
「れ、れんしゅうって、なにの?」
「いずれ、マヤちゃんはあたしをおばちゃんと呼ぶようになるんだからね。」
「え、ええっと……。…?」
「いいからいいから。それより、もう1回言ってくれないかな〜。」
「う、うん。いいよ。リノおばちゃん。」
「もっとゆっくり。」
「…う、うん。」
ふたりっきりのみっしつ。
いまいちもくてきがわからないまま、あたしはなんかいもいわされました。
そのたびに、リノおばちゃんはにこにことわらってました。
ちょうしをあわせるようにあいそわらいをうかべながら、あたしはひたすらに
たすけがくるのをまちわびていました。
だれでもいいから、ここにきて。そして、このくうきをなんとかして。
わるいひとじゃないんだけど。
とにかく、怖い。
ずいぶんと、ながくかんじるじかんがすぎて。
ようやくあいたドアのむこうに立っていたのは、カルおじちゃんでした。
「待たせたなリノ。…お、マヤ坊。遊んでもらってたのか?」
「そうよねーマヤちゃーん。」
じゃきのぬけたえがおとともにそういわれ、あたしはとりあえずうなずくしか
ありませんでした。
それでも、あのときだけは。
いつもかげのうすいカルおじちゃんが、たすけのかみさまにみえていました。
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ゆうがたになって。
ちゅうぼうでいろいろとくんれんしていたリノおばちゃんは、かえりじたくを
おえてあいさつにきました。
ビクッとみをすくませたあたしをだいたまま、おばあちゃんはいりぐちまで
リノおばちゃんをみおくりにでました。
カルおじちゃんとならんだリノおばちゃんは、えがおでてをふりました。
「じゃあ、またねーマヤちゃーん。」
「さ、さよならーリノおばちゃん。」
おそるおそる、そういったとたん。
「こらマヤ!なんですか、おばちゃんだなんて!失礼でしょ!?」
あたしをだいていたおばあちゃんが、高いこえでしかりつけてきました。
わかってるよ、しつれいだっていうのは。
だけど、そうよびなさいとおどされたんだから。
いったいあたしは、どうすればいいの。
たすけをもとめてめをむけたけど、リノおばちゃんはえがおをかえすだけ。
しらばっくれるきなんだと、ピンときた。
「いいんですいいんです。じゃあ、失礼します!」
げんきなこえをのこし、リノおばちゃんはかえっていきました。
いえまでおくるという、カルおじちゃんといっしょに。
「ダメよーマヤ。あそこは「お姉ちゃん」でしょ?これからは気をつけてね。」
「…はぁい。」
すなおにこたえとくしか、あたしにはにげみちがなかった。
そう。
あのリノおばちゃんは、きっとましょうの女なのね。
にこやかなかおのうらに、とってもこわいいちめんをもってる。
こいするおんなはまものだと、おかあさんのすきなドラマでいってたけど。
まさに、あれがそうなんだとおもう。
あたしも、おおきくなったらああいうましょうの女になるのかな。
だとしたら。
おとなって、怖い。
とりあえず、おとなになるまでは、せいいっぱいこどもでいよう。
ゆるされるかぎり、こどもでいよう。
そんなことをかんがえながら、あたしはまどのそとにめをむけた。
ちょうど、おとうさんとおかあさんがかえってくるところだった。
そのかおをみたあたしは、しんそこホッとした。
おにのおかあさんなんて、きょうのこととくらべればたいしてこわくもない。
それよりなにより、はやくかえりたかった。
あんしんできる、おうちへ。
「ただいまー。ごめんね遅くなって。」
「おじゃまします、お義母さん。」
「はいはいおかえりなさい。」
おみせにはいってきたおとうさんとおかあさんが、あたしにあゆみよった。
「ただいまーマヤ。いい子にしてたかなぁ?」
「ええ。とってもいい子だったわよねー。」
あたしをだきあげたおかあさんのはいごから、おばあちゃんがいい添える。
「きょうは、リノお姉ちゃんと遊んでもらってたのよね。」
「リノ?ああ、カルのカノジョね?」
「そうそう。」
「へぇー、よかったじゃない。」
そういって、おかあさんはにっこりとわらった。
「じゃあ、今度うちに招待しようね。カルと一緒に!」
ええっ!!
それだけは、それだけはかんべんしてっ!
ながいつきあいになりそうな、そんなよかんがした。
リノおばちゃん。
とってもやさしくって、そして怖い。
あたしの、新しいおばちゃんになる人です。
よろしくね、おばちゃん。
どうぞ、おてやわらかにね。
===============<おしまい>================
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