第四章:5月
〜プレゼントのリスト〜
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「…先生、まだですかー?」
「もうちょっとだよ。」
何度目になるかも分からないやり取りの内容は、やはり同じだった。
わざとらしくため息をついたクローネは、大きな荷物をよっこらしょと背負い直す。
何なのかはよく知らないが、家具か何かも入っているのは確かだった。
いつも特訓で引きずっている氷塊に比べればそれほど大した重さでもないが、
どこまで行くのかわからないという不安が、荷物をいやに重く感じさせている。

見渡すかぎり、真っ白な雪だけが支配している極地。
先を行くルドルフも自分も、空から見ればほんのちっぽけな点だろう。
家を出たのは、2日ほど前だっただろうか。
この時期の北極圏は白夜になっているため、何時になっても日が沈まない。
変わり映えのしない景色は、否応なしに時間の感覚を薄れさせる。
静寂に満ちた北極の大地に、2人の足音だけがかすかに響いていた。
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どのくらい歩いただろうか。
世界でもっとも北に営巣するユキホオジロも、すでにもう一羽も見かけない。
寒々とした雪と岩だけの荒野が続いていた、その視線の先に。
「……?」
荒い息をつきながら顔を上げたクローネの目が、小さな「色」を捉える。
それは、自分たち2人が歩く先にポツリと浮かぶ点だった。
近付くにつれ、次第にはっきりとした形を目に映してくる。
点だと思ったのは、地面から1mほどの空間に浮かぶ、小さな球体だった。
「見えるだろ?あれが目的地だ。」
鼻歌混じりに先を歩いていたルドルフが、その赤い球体を指し示して小さくつぶやく。
「何ですか?あれ。」
「行きゃあ分かる。もうすぐだ。」
白銀の世界では、遠近感はかなりあやふやになる。
見えてからのそこまでの距離は、予想よりもだいぶ遠かった。
「やっと着いたぁ…。」
やれやれといった口調で荷物を降ろし、クローネは腰を伸ばして大きく伸びをする。
空気は、肌を刺すかのようにつんと澄み渡っていた。
「…で、何なんですかここ。」
「わかんねえか?北極で踏破すべき場所といえば、ベタに思いつくだろ。」
「え?…もしかしてこれ、北極点の印なんですか?」
「ほら見ろ、わかるじゃねえか。」
そっけなく答えたルドルフは、ポットから熱いコーヒーをカップに注ぐ。
「北極は大陸じゃねえから、氷の上に印を残しても正確な目標にはならねえんだ。
だから、空気中にこういうマークを打っておくんだよ。人間には見えねえものだけどな。」
しげしげと球体を見つめるクローネの顔に、次第に興奮の色が宿った。

「……じゃあ、じゃあ、ここが地軸の頂点なんですね?」
「そうだ。自転方向はこっちからこっちだ。」
ざっと円を描くルドルフの手を目で追い、クローネはそっと旗に近付く。
やがて。
「わーい!!世界一周世界一周!!」
長旅の疲れも見せず、クローネはバタバタと球体の周りを駆け回り始めた。
「…おい。」

「いつまでやってんだコラ。」
嬌声をあげてひたすら走り続けるクローネの頭をポカリと拳固で叩き、
ルドルフは振り返ってサッと手を振った。同時に、浮いていた球体は跡形もなく消える。
「あれ、消しちゃうんですか?」
「そうだ。これはただの目印だから、あると邪魔なんだよ。心配しなくても帰りに戻す。」
言いながら、ルドルフは球体の浮いていたすぐ下の雪をゆっくりとかき出していく。
怪訝そうに見ていたクローネも、やがて腰を屈めてその作業を手伝い始めた。
何分も経たないうちにかなりの深さの穴が掘られ、2人の姿はその中に沈んでいた。
と、その時。
「…あれ?」
一心に雪を掘っていたクローネが、ふと手を留めて目を見開く。
ずっと真っ白な雪ばかりだった目の前の層に、黒い土が混じってきていた。
「先生、これ土の地面ですよね?…北極って氷の塊じゃないんですか?」
「そうだ。よく知ってるな。」
少し慎重な手つきで雪をかき出しながら、ルドルフは低い声で答える。
「確かに、北極は薄い氷の塊だ。こんな風に掘れば、普通は海に落ちる。だけどこの極点には
だいたい10m四方にだけ地面が作ってあるんだよ。しゃぶしゃぶ鍋みたいにな。」
「作ってあるって…誰が作ったんですか?」
「じじいだよ。もう、何百年も前の話だけどな。」
「おじいちゃんが?」
「そうだ。何度目かの整地の時には、俺も手伝った。」
言っている間に、ルドルフは3m四方ほどの土の空間をきれいにならした。
立ち上がると、クローネの帽子とルドルフのツノがかろうじて雪の上に出る。
小さな部屋のような空間が、その場にできた格好になった。
「さて、と。おいチビクロ。」
「クローネです。」
口を尖らせたクローネを一瞥し、ルドルフはならした地面に再び視線を向ける。
「そこに印があるだろ?4つの四角いマークだ。」
「え?」
指し示すルドルフの手を目で追ったクローネは、土の地面に目を凝らす。
「……………あ、これですね。あったあった。」
言いながら地面に手をついたクローネの目が、何かを捉えた。
確かに、印刷物につけるトリムマークのような印が地面にうっすらと4箇所記されている。

目で追う限り、それはどうやらほぼ正確な四角形を形作っているようだった。
「さっそくだが、仕事に取り掛かる。持ってきた荷物の中にある、机をここに持って来い。」
「え?…あたし机なんか運んだんですか。」
「そうだ。一番下にあるから、運んで来い。急げよ。」
こともなく言ってのけるルドルフにもう一度口を尖らせてみせ、クローネは黙って穴から
這い出した。投げ出してあった荷物のひもを解き、一番下に収められていたものを引っ張り出す。
それは、骨董品屋も見放すような古ぼけた机だった。
「きたない机ー。」
不服そうに眉根にしわを寄せながら、クローネはその鈍重な机を持ち上げた。
これもまた、天板の部分にトリムマーク状のガイド線が刻まれているのが分かる。
「持ってきましたよ先生。」
「よっしゃ。そっと下ろせよ。古いもんだからな。」
「は〜い。」
気のない声で応え、クローネは先に穴に降りた。そして、机の脚を持ってゆっくりと穴の中に下ろす。
それほど大きな机というわけではないものの、これを置いた事で穴の中は一気に狭くなった。
「これでいいですか?」
「おお。それじゃ、位置を合わせるぞ。」
「位置…?」
何をやっているのか分からないクローネは、怪訝そうに言葉を返す。
そんなクローネに軽く頷き、ルドルフは目の前の机の左側に手をかけた。
「お前はそっちを持て。」
「はい。」
言われるまま、とりあえずクローネもルドルフに倣って天板部分をもつ。
「足元にある4つの印と、机の脚の外側がぴったり重なるようにするんだ。分かるな?」
「え?ああ、なるほど。ハイハイハイ。」
合点がいったといった声で応え、クローネはタイミングを合わせて机を持ち上げた。
同じように半分を受け持つルドルフと歩調をそろえ、そろそろと机の位置を動かす。
「…あー、ホントだ。印と机の脚がピッタリになる…。」
「ずれないように気をつけろよ。」
ほどなく、机はしかるべき位置に収まった。
足元に印されたガイドマークは、ミリ単位まで机のタテヨコにピッタリと合致している。
「よっしゃ。これでいい。」
「わー、面白ーい!先生の家の物置にある机で、こんな事ができるなんて…。」
「ああ。こいつは古いけど、大切なもんなんだよ。…かれこれ100年近く使ってる。」
「ここでですか?」
問いかけに、ルドルフは黙って頷いた。
「…こんな場所で書き物するんですか。ひょっとして、詩か何かを……?」
「俺がそんなもん書くかアホ!」
ちょっと眉を吊り上げたルドルフは、小突く代わりにビシッとクローネを手で指した。
「これから、ここで『書く』のはお前だよ。」
「ええ?」
寄り目ぎみに指し示す手を見つめ、クローネは間抜けな声を上げる。
「あたしがここで詩を詠むんですか?
「詩じゃねえっつってんだろうが!」
軽く怒鳴ったルドルフの手が、傷だらけの天板を軽く叩いた。
そして、顔つきと口調をいくらか改めて続ける。
「いいか。これからいよいよ実務に移る。今日から、今年のクリスマスイブに配る
プレゼントの品名リスト作成を始めるぞ。終わるまではここに寝泊りする。」
「プレゼントのリスト…ですか?」
ますます訝しげな口調を強め、クローネは思わず自分の周囲を見回した。
小部屋ほどの広さもない、雪の上の穴。
その周囲に広がっているのは、見渡す限り続く雪と氷の大荒原。
どう考えても、そんなデスクワークに向いているとは思えない場所だった。
「…先生。」
「何だ?」
「何でよりによって、わざわざこんな場所でそんな事しなきゃならないんですか?
先生の家はネットも引いてあるし、集積と分類用のコンピューターも全装備でしょ。
まさか、そういう機器のたぐいもぜんぶ、荷物の中に入ってたって言うんですか…?」
「いいや。そういうのはねえよ。荷物は食い物関連と生活用品、それに簡易トイレと寝具だ。」
そう答えたルドルフは、少しだけ顔を上げて空を見上げる。
「機械でやるのはもっと後だ。とりあえずのプレゼントの内訳は、ここでやってしまう。
そのデータをもとに、今年のプレゼント配達のプランをきっちり具体的に固めるんだよ。」
「だけど…どうやって?」
どうにも、クローネにはこれから始める作業の想像がまったくつかなかった。
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「とりあえず、席につけ。」
荷物から取り出した折り畳みイスを置き、ルドルフはクローネに言った。
座面を指し示す手を怪訝そうに見つめるクローネは、しぶしぶといった態でそこに座る。
座った姿勢で改めて見ると、目の前の机はさらに古ぼけた印象を与える。
その天板には、トレイくらいの大きさの四角がうっすらと記されていた。
「よし。じゃあ、これだ。」
と、どこから取り出したのか、ルドルフは厚めの大学ノートをクローネの目の前に広げる。
最初のページには、何も書かれていなかった。どうやら、買ったばかりの新品らしい。
「…?」
見開きにしたノートのサイズが印された四角のサイズとぴったりなのに気付き、
クローネは不思議そうな表情を浮かべてルドルフに向き直った。
「机もノートも、置く位置が決まってるんですか?」
「そうだ。…もう、ずうっと前からな。」
答えたルドルフは、クラフトテープを取り出した。それを適当な長さに切り、
置いたばかりのノートの表紙四隅をしっかりと天面に貼り付ける。
「さてと。じゃあ、始めるとするか。」
言いながら、ルドルフは古びたケースに入った鉛筆を取り出して並べた。
「これから、お前に『時写しの術』を教える。」
「トキウツシ?…何ですかそれ。」
体ごと向き直ろうとするクローネの肩を、意外に強い力でルドルフの手が押し戻す。
逆らい難い思惟のようなものを感じたクローネは、おとなしく机に向いた。
「これはサンタクロースの力を持つ者、つまりじじい本人かお前にしかできない術だ。
俺も何度か挑戦したが、けっきょく無理だった。だから、お前に託すことにする。」
「え…先生にできなくて、あたしにできる事があるんですか?」
意外な話を耳にして、クローネは何となく嬉しそうに言った。
自然とほころぶその顔を一瞥し、ルドルフは気のない表情で頷く。
「そうだ。これは努力とか才能とかそういうのは関係ない。できる奴にしかできないんだよ。」
「やりますやります。まかせて下さい!」
勝ち誇ったような声で言ったクローネは、削られたばかりの鉛筆を手に取った。
「…で、何をすればいいんですか?」
「やる事は簡単だ。」
そっけなく答えたルドルフの指が、ノートの1ページめを指し示す。
「ノートの帳面を見て、精神と感覚を目に集中しろ。」
「え?それって…」
「いいから早くやれ。」
なおも何かを訊こうとするクローネにぴしゃりと言葉を投げ、ルドルフは口調を厳しくする。
「終わらねえと帰れねえんだぞ。ここにはテレビもケーキもねえ。さっさとやらねえと…」
「やりますやります!」
みなまで言わせず、クローネはあわててノートのページに視線を落とした。
罫線だけが規則正しく印刷された、真っ白いノート。
雪の色を反射しているせいか、その白さはなおさら際立っているように感じられる。
もちろん、そこには何もなかった。
時おり吹き抜ける風の音以外には、聞こえるものもない。
傍らに立つルドルフは、腕組みをしたまま黙ってクローネの顔を見つめていた。
10分後。
「…あの、先生。」
「何だ。」
「これ、どういう修行なんですか?」
「修行じゃねえ。実務だっつったろ?」
ページを見たまま問いかけるクローネに、ルドルフは抑揚のない声で答える。
「いいから集中しろ。ページに意識を集中して、ひたすら見るんだよ。穴の開くほどな。」
「………。」
取り付く島もない言葉に、クローネは小さくため息をついた。
体を動かすのが好きな彼女にとって、かなり気分的な苦痛は大きい。
しかしこれ以上、ルドルフが何かのヒントをくれそうな気配はなかった。
あきらめに似た気持ちのまま、クローネは白いページに目を落とす。
穴の縁に腰掛け、ルドルフはなおも腕組みしたまま空を仰いでいた。
さらに、数10分が経った。
「経った」とはいっても、正確な時間の経過はわからない。
時計もなく、周囲の景色が変わることもない。
太陽が沈まないから、なおのこと時の流れが実感できない。
静寂が深すぎて、眠くすらならない。
あまりの変化のなさに、クローネはノートを見たまま朦朧としてきていた。
鈍った思考や五感のほとんどが遠ざかり、視覚だけがかろうじて機能しているような感覚。
まるで、自分自身がこの白い平原と一体化してしまったかのようだった。
と、その刹那。
「…………?」
クローネの目が、ページ上にかすかな変化が起こったのを認めた。
真っ白だった罫線の上に、うっすらと水色のシミが浮かび始めている。
さらに集中して、凝視するうち。
シミだと思っていたその水色は、しだいに文字としての明確な形を現してきた。
「…先生。」
「何だ?」
即答したルドルフが、顔をクローネに向ける。
「…何だか知らないけど、文字が見えてきた気が……」
「何て書いてある?声に出してみろ。」
問われるまま、クローネは一番上に書かれている一文を口にした。
『……ウ…ウサギのぬいぐるみ…大…サイズ……2…4…5…2…0…5…0…0…』
たどたどしく読み上げると同時に、クローネは歓声を上げる。
「あっ!!これって…まさかプレゼントのリストですか!?」
途端に、ページ上の文字は幻のようにかき消えた。
「あれっ…」
気勢を削がれてキョロキョロとページを見回すクローネの脇に、ルドルフが飛び降りる。
「集中力が切れたな。…まあ、ちょっと休め。」
言いながら差し出したのは、クローネ専用のマグカップだった。
いつの間に沸かしたのか、中には湯気の立つホットミルクが満ちている。
「どうやら、見えたらしいな。もっと時間がかかるかと思ってたが…。」
「いま見えたのが、先生の言ってたトキウツシですか?」
「そうだ。」
答えたルドルフは、うまそうにコーヒーをひと口すすった。
「コツはつかめただろ。ひと休みしたら、今度はそれをぜんぶ書き写せ。」
「書き写すって…どこに?」
「ノートにに決まってんじゃねえか。」
ミルクを口に含むクローネを一瞥し、ルドルフはノートを指し示した。
「お前の見た文字は、実際にそのノートに記載されてるわけじゃねえ。ただ単に
見えてるだけだ。だから、見えてるままに上から鉛筆でなぞればそれでいい。」
「……ふーん…。分かりました…。」
解せないといった口調ながら、クローネはとりあえず頷いた。
飲み終えたマグカップをルドルフに返し、自分から再び席につく。
やはり、ページは真っ白だった。
しかし、何となくやり方は分かった。そして「見える」ということも分かった。
精神を集中したクローネは、少し体の力を抜いてノートを凝視する。
待つほどもなく、罫線の上に水色の文字が再びぼんやりと浮かび始めた。
『ウサギのぬいぐるみ大サイズ・24520500個』
間違いなく、さっき見たのと同じ文面だ。
確信したクローネの手がすばやく動き、その文字を鉛筆で上からなぞる。
浮かぶ文字が薄い水色であるため、書いたか書いてないかは一目で確認できた。
「…よーし。」
感覚を憶えたクローネは、より鮮明に見えるようになったその文字を慎重にトレースしていく。
30分もかからないうちに、見開きページの記述は全て書き写されていた。
「先生、できましたよー!」
「お、そうか?」
声に応えたルドルフが、机の脇に立って帳面を確認する。
サングラス越しの視線が、そこに書かれた文字を素早く追った。
「…よしよし。これでいい。じゃあ、続けろ。」
「えっ?」
腰を浮かせようとしていたクローネは、その言葉に目を見開いた。
「続ける、って……これで終わりじゃないんですか?」
「バカ言え。まだ1ページじゃねえか。子供の総数はこんなもんじゃねえんだぞ。」
いささか険しい口調で答えたルドルフは、じろりとクローネを睨む。
「ページをめくって、今度は次の項目を見るんだよ。これもコツを掴めばできる。」
言われるままにページを繰り、クローネは再びその白い帳面を凝視した。
するとほどなく、さっきとは少し違う文字列が浮かび上がり始める。
「あ…」
小さく声を上げたクローネは、いちばん上の項目を読んでみた。
『……ダイキャストミニカー…4567…8230個…』
確かに、さっき書き写したページとは内容が違う。さらによく見てみると、
ページの端に小さく「2」「3」というノンブルが振られているのが見えた。
慎重にページを書き写しながら、クローネはふと疑問を口にする。
「これって、何ページ分くらい書くんですか…?」
「だいたい、そのノート丸一冊分くらいだな。まあ、書ききれなくても予備は持ってきてる。」
「ええっ!?」
悲鳴に似た大声を上げたクローネは、思わず傍らのルドルフに顔を向けた。
「そ、そんなにたくさん書くんですか?」
「当たり前だ。」
事もなげに言ったルドルフが、冷ややかな目でクローネを見据える。
「世界中の子供に届けるプレゼントだぜ。半端な数じゃねえってことくらい分かるだろ。
すべての子供ってわけじゃねえが、それでもまだまだケタが違う。甘く見るなよ。」
「で、でも…」
視線を泳がせながら、クローネはたどたどしく抗議した。
「あたし一人で全部やるんですか?…半分くらい手伝ってくれても……」
「俺にはその記述はできねえって最初に言っただろうが。」
ぴしゃりと突っぱねたルドルフの顔が、ぐっとクローネに寄せられる。
「それにお前も、やりますって言ったよな?…だったら、責任持ってやり遂げてみせろ。
できねえって投げ出すわけにはいかねえんだぜ。これはサンタクロースの実務なんだからな。」
「……」
返答に窮し、クローネはうつむいた。
自分しかできないと聞いて調子に乗ったものの、その内容は想像をかなり超えている。
しかし、今さら言い訳は通用しそうになかった。逃れるためには終わらせるしかない。
「…分かりました。」
ぼそりと呟いたクローネの視線が、改めてノートに向けられる。
やり方をほぼマスターしたらしく、その手はすぐに筆記を再開した。
「そうだ。文句を言ったところで終わるもんじゃねえ。だったら、必死でやれ。サポートはしてやる。」
そう言い残して、ルドルフは雪の小部屋から這い出した。
風をまともに受けるため、小部屋の外の空気はよりいっそう冷たく感じられる。
「そんなわけで、まぁガンバレや。」
一心に筆記を続けるクローネをそこに残したルドルフが、ゆっくりと荷物に向かう。
いちばん上に積まれていた箱の中身は、食料品だった。
「…さて、何日いる事になるんだかなぁ。まあ、腰を据えてかかるだけだ。」
呟きながら仰いだ空には、相変わらず控えめな太陽が輝いていた。
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作業は続いた。
『何日』という感覚は、この地では通用しない。
空を移動してはいるものの、沈まない太陽。
それは、時間の流れを覆い隠す光だった。
慣れるにしたがって、クローネの筆記スピードは少しずつ速くなった。
しかし、視覚に意識を集中するという状態は、肉体労働以上の疲労を強いる。
浮かぶ文字に意識をつなぎ止めるのは、2ページが限界だった。
書いては休み、書いては休みの繰り返し。
適当に時間を区切って食事を摂り、適当に時間を見繕って眠る。
人の影も、生き物の気配すらもない極北の地。
ルドルフとクローネは、この隔絶された地で静寂の時を過ごし続けた。
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この地に来てから、何日過ぎたのだろうか。
ひとり寝具の整理をしていたルドルフは、黙々と作業を続けるクローネに目を向けた。
いつも通り食事はしているものの、精神をすり減らす作業を
ずっと続けているため、その顔はいつもより少しやつれて見える。
しかし、集中力は格段に上がっていた。わき目も振らずにノートのページを見据え、
ひたすら鉛筆を走らせている。
しばらくそのさまを見ていたルドルフは、とある事に気付いて眉をひそめた。
ここまでのスピードアップ振りから考えると、何となくもたついているような仕種が目立つ。
何か、余計な動作が増えてきたかのような感じだった。
「おい。…疲れてきたか?ペース落ちてるように見えるぞ。」
声をかけられたクローネは、鉛筆を止めてルドルフに向き直る。
見開いた目は炯々と光っており、疲労の色はあまり感じられなかった。
「やっぱり分かりますか?…実は、文字が見えにくくって。」
「見えにくい?…集中力が切れてきたってのか?」
「いいえ。」
否定したクローネは、目の前のノートを指差す。
「集中力が切れたんなら、文字全体のピントがボケるはずなんです。だけど、これは
そういうんじゃない。だって、きちんと読める部分もけっこうあるんですから。」
「部分的にボケてるって言いてえのか?」
「うーん…と言うより…」
問いに、クローネはしばし視線を泳がせた。
そして、言葉を探しながらゆっくりと説明する。
「ボケてるって言うより、書いた上から水でもこぼしたって感じかなあ。
濡れたところの文字が、にじんじゃったみたいな…。」
「なるほどな。それで読みにくいわけか。」
納得したといった態で、ルドルフは軽く頷いた。
「でも、読めねえってほどひどくはねえんだろ?」
「まあ、解読はできます…けど。」
「じゃあ、何とかしろ。時間はかかってもいい。俺には、その文字は確認しようがねえからな。」
「は〜い。」
オクターブの低い声で返事したクローネが、ノートに視線を戻す。
すでに、書き終えたページ数は全体の7割以上に達していた。
その全てが、配るべきプレゼントの詳細なリストになっている。
一心に鉛筆を繰りながらも、クローネはその事実の重さを肌で感じていた。
内訳を列記するだけでもこんなに大変なのに、それを一晩で世界中に配る。
とうてい、常識ではかり切れるようなことではなかった。
(……あたしが、これからこれを配るサンタクロースになるんだ……)
今までほとんど実感のなかった自分の定めに、気持ちが引き締まるのが分かる。
さらに集中の度合いを高めたクローネの丸い背を、ルドルフは満足そうに見守っていた。
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さらに、いくばくかの時間が流れた頃。
何度目かの食事を終え、相変わらずクローネは机に向かっていた。
後片付けを済ませたルドルフが、しばし空を見上げていた刹那。
「あれっ?」
残り少なくなったページを機械的な動作でめくったクローネが、高い声を上げた。
「どうした?」
「いえ…。何か、変なことが書いてあるんです。ホラ…」
自分にしか見えていないということを忘れ、クローネは白いページを指し示した。
「見えねえんだよ。口で言ってくれ。」
「あそっか。…何だろこれ。数字と、ハンコみたいなマークがひとつ……。」
自信なさげなその言葉に、ルドルフはぴくりと眉を動かす。
「そうか。…じゃあ、とりあえずそれもなぞってみろ。大体でいいから。」
「あ、はい。」
言われるまま、クローネは向かって右のページの中ほどあたりに何やらマークを描く。
ゆがんではいるが、どうやらそれは何かの印らしかった。
「えーと、こんな感じです。」
「なるほどな。」
そう言ったルドルフは、不意ににやりと笑みを浮かべた。
「ようし。よくやったぜ。どうやら、これでリストは完成らしい。」
「え?どうしてそんな事が分かるんですか?」
怪訝そうな問いに答える代わりに、ルドルフはごそごそとポケットをまさぐった。
そして何か小さなものを取り出し、今しがたクローネが鉛筆を走らせた帳面に叩きつける。
「!?」
思わず身を引いたクローネは、その「何か」が押し当てられた部分を見て目をむいた。

そこには、少し前に自分がなぞったのとまったく同じ印が押されていた。
「あれっ、これあたしが見たのと同じ!?」
「そうだ。これは、ここでリストが終わりだっていう証明印なんだよ。」
印鑑をポケットに戻したルドルフは、もう一度にやりと笑った。そして、もう一方の手で
自分を見つめるクローネの頭をぐりぐりと乱暴になでる。
「これで、今年のプレゼントのリストは手に入った。でかしたぜクローネ。」
「………ホントに?」
「ホントにだ。」
「やった――――――ッ!!」
椅子から飛び降りたクローネは、歓声を上げて穴から飛び出した。
そのまま、北極点の周りをどたどたと駆け回り始める。
「やったーできたできた!リストができた――!」
そのさまを見つめるルドルフもまた、穴から飛び出して一緒に走りはじめた。

生き物の気配すらない、極北の荒野。
その真っ只中で、2人はしばし達成の余韻に浸りながら地球一周を続けていた。
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「じゃあ、忘れ物はねえな?」
「大丈夫です!」
来た時と同じ大荷物を背負い、クローネは張りのある声で答えた。
極点に開けた穴部屋はきれいに塞がれ、平らにならされている。
言われなければ、そこに何かがあるという事はまったく想像もつかなかった。
「じゃあ、帰るとするか。」
そう言って、ルドルフは右手の蹄をパチンと打ち鳴らす。
同時に、来た時に目印にした赤い球体が地面の上の空間にぽつんと出現した。
「こんど来るまで、またこうしておく。」
「どっかで見たことあると思ったけど…。これ、先生の鼻そっくりなんですね。」
「まあな。」
答えたルドルフは、そのまま踵を返して歩き出す。
もう一度その球体を一瞥したクローネもまた、雪を踏みしめながら後に続いた。
振り仰げば、限りなく白に近い青空が広がる極地の空。
見渡す限り、雪と氷しか見えない沈黙の世界。
どこまでも続く静寂の中に、2人の足音だけがかすかに響いていた。
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「…それにしても、不思議な術ですねー。」
何度目かの、休憩のひととき。
荷物を下ろしてお茶をすすっていたクローネが、ポツリと呟いた。
「ただ見るだけでプレゼントの割り振りを教えてくれるなんて、地球って面白いですね。」
「地球?」
怪訝そうな声で答えたルドルフに、クローネは視線を向けて問いかける。
「違うんですか?あたしなりに考えてみたんですけど。浮かんできたあの文字って、
地球自体の意志が見せてくれたものなんじゃないのかなぁ…って。」
「ほお。なかなか面白え仮定だな。」
そう言って笑ったルドルフは、お茶をひと口うまそうにすすった。
「だけど、残念ながら違う。地球に意志があるという『ガイア思想』は確かに存在するが、
もしそれが事実だとしても子供へのプレゼントなんて細かい事までは考えてくれねえよ。」
「え?」
カップを持つ手を止め、クローネはまじまじとルドルフの顔を見つめた。
「ち、違うんですか?」
「ああ、違う。」
あっさりと言ったルドルフの視線は、はるか後方に消えた北極点に向けられる。
「…あんまり詳しく教えると意識しちまってよくねえと思ったから、説明は控えてたんだ。
だけど、もういいだろう。お前も秘術は体得したみてえだから、からくりを教えてやるよ。」
「いいんですか?じゃあ是非!」
勢い込んだクローネに軽く頷き、ルドルフは座る姿勢を直した。
そして、カップに残っていたお茶を一気に飲み干す。
何となく講義を受ける学生のような気分になったクローネも、姿勢を正した。
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「さて。北極点が地球の自転軸の頂点だっていう事は、分かってるよな?」
「もちろんです。南極点とつないだ軸を中心にして、地球は回ってるんですよね。」
「そうだ。一周が24時間。それがいわゆる「一日」と言われる時間経過だ。」
言いながら、ルドルフは雪の上に簡単な図を描いた。
「だけど地球ってのは丸いから、当然外周は少しずつ長くなる。つまり、
「一日」という概念は極点から遠ざかるほど大きくなっていくんだ。」
「大きくなる?」
首を傾げたクローネは、考えをまとめるために少し目を泳がせた。
「……じゃあ、世界でいちばん大きな「一日」があるのは、赤道直下ってことですか?」
「そうだ。お前もなかなか理解が早えじゃねえか。」
ほめ言葉にクローネが赤くなるのを笑いながら見つめ、ルドルフは説明を続ける。

「…逆に考えると、軸の頂点にある極点には「自転による一日」ってものが
存在してねえ事になるんだよ。それはお前も、何となく肌で実感しただろ?」
「ええ。それはもちろん…。」
激しく時間の感覚が失われたのを思い出し、クローネは実感のこもった言葉を返した。
「何度も、時間が止まってるのかと思いましたから。」
「そう。」
頷いたルドルフは、描いた図を手で消しながら続ける。
「あそこには、公転による「一年」はあっても「一日」は存在していない。つまり、
極点ってのはこの地球上でもっとも”時間の影響力が弱い場所”なんだよ。」
「時間の影響力?」
「そうだ。」
視線をクローネに向け、ルドルフは少し口調を変えた。
「だから、能力のある者があそこで精神を集中すれば、感覚だけを”今以外のいつか”に
飛ばす事ができるんだよ。簡単に言えば、未来のあの場所を見られるって事だ。」
「えっ…み、未来?」
途中で裏返った声に、クローネの驚きが如実に浮かぶ。
目をむいたその顔をおかしそうに見つめ、ルドルフはノートを取り出した。
パラパラと後ろからページを繰り、判を押した最後の部分をかざす。
「分かるか?この認証印の横に書かれた数字。これは日付なんだよ。1030…つまり
10月の30日だ。今年の初冬にあの場所に置かれるノートのページを、お前の視覚は
およそ5ヶ月という月日を一気に飛び越して感知し、そのまま書き留めたってわけだ。」
「だ、だけど。」
考えを整理できないといった顔でうろたえつつ、クローネは懸命に言葉を探した。
「いったい、誰がそのノートを置いたんですか?それも、ぴったりあの場所に…」
「決まってんじゃねえか。おまえ自身だよ」
にべもなく答えたルドルフの指は、そのまま迷いなくクローネを指す。
「今から5ヶ月ののちに、お前は机を持ってもう一度あそこへいくんだよ。そして、
ちゃんと集計したプレゼントのリストを掲示する。今のお前に見せるために、な。」
「……………」
想像を超える話に、クローネは軽いめまいを起こした。
それでも頭を乱暴に振り、なんとか話を整理しようとする。
「…どっかで見たくせ字だと思ったけど、あれ、あたしの字だったんですか。」
「まあ、そうなんだろうな。だとすると、俺は”書かない”らしい。」
「そうですよね…。」
ようやく落ち着いたらしいクローネは、視線を泳がせながらブツブツと呟く。
「そっか…『時写し』……それで時写しなんだ……」
「さて。あんまりのんびりしてるのもなんだ。そろそろ行くか。」
そう言って腰を上げたルドルフは、ポケットから時計を取り出した。
なおも独り言を言っていたクローネは、それを目にして思わず声を上げる。
「ああっ!とっ時計!!持ってたんですかっ!?」
「当たり前だろうが。」
「なんで今まで見せてくれなかったんですか!?」
食ってかかるクローネから逃れるように歩き出したルドルフは、
数歩行ったところで顔だけ振り返ってにやりと笑いかけた。
「言っただろ?感覚が時間を超越しきゃならねえって。だからヘタに時刻を
意識しちまうと、時写しは発現できないかも知れなかったんだよ。」
「…じゃあ、今はいいんでしょ?見せて見せてっ!!」
「やーなこった。見たけりゃここまでおいでってんだよ。」
この上なく意地悪な笑みを浮かべ、ルドルフは舌を出して駆け出した。
口を尖らせたクローネは、あわてて荷物を背負うとその後を追いかける。
「待ってってば先生ー!見せて見せて!時計見せてえッ!!」
「や〜い、ここまでおいでチビクロさーん!!」
すでに極地を抜けた事を、夜の訪れが物語っている。
昇ったばかりの月の明かりが、2人の追いかけっこを影絵のように映し出していた。

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「…だけど先生。ちょっと考えたんだけど……。」
ようやく満足して時計をルドルフに返し、クローネはぼそりと問いかけた。
「どうして五ヵ月後のノートには、プレゼントのリストしか書いてなかったの?
知らないけど、その頃はプレゼントを配る相手のリストもできてるんじゃ…?」
「まあ当然だな。その時にできてなかったらそりゃ大問題だ。」
「でしょ?じゃあそれもこっちに写しちゃった方が楽じゃない。」
並んで歩くクローネは、勢い込んでルドルフに身を寄せる。その拍子に
ツノにぶつかりそうになった背負子の荷物をかわし、ルドルフは小さく頷いた。
「お前も馬鹿じゃねえな。確かにその通りだ。時写しの術を使えば、今この時点で
本番の日に必要な情報は全て手に入る。そうすりゃ後はだいぶ楽になるだろうな。」
「でしょでしょ?…何でそうしないの?おじいちゃんはしなかったの?」
「ああ。しなかった。」
即答したルドルフは、そこでふと歩みを止めた。
つられて止まるクローネに目を向け、ゆっくりと空を見上げる。
「理由は2つある。ひとつは、タイムパラドックスの回避だ。」
「タイムパラドックス?…SFとかである、あれ?」
「そう、あれだ。」
頷いたルドルフの視線が、クローネにゆっくりと向いた。
「もしも今の時点でお前が全部のリストを手にしちまったら、これから先それを
調べて作る必要が無くなっちまう。つまり、そのリストがどこからもたらされたか
分からなくなるんだよ。そんな変な事態を引き起こすと危険だろうから、じじいは
禁忌を定めたんだ。時写しは、プレゼントのリスト作成以外には使わねえって。」
「…それって、そんなに危険なんですか?」
怪訝そうなクローネの問いに、ルドルフはそっと首を振る。
「さあな。だけど、わざわざ危険を冒すことはねえ。プレゼントの種類と総数さえ
分かれば、あとは地道に統計を取って、配る相手を割り出せばいいってだけの
話だからな。それなら、パラドックスも最低限に抑えて自己完結できるだろ?」
「……うーん…。そういうものなんですか。」
なおも納得できないといった態ながら、クローネはしぶしぶ頷いた。
しばらく目を泳がせ、やがて再びルドルフに向き直る。
「じゃあ、もうひとつの理由は?」
それを聞けば納得できるかも知れない。そんな期待を込めた視線だった。
しかしそれを向けられたルドルフは、黙って踵を返した。
そのまま歩き出した背を、虚を突かれたクローネがあわてて追う。
荷物にくくり付けられたナベやヤカンが、カチャカチャと耳障りな音を立てた。
「ちょっと先生。教えてよ。もうひとつの理由!」
「今はダメだ。」
顔を向けることもなく、ルドルフはクローネの言葉を素っ気なく突っぱねる。
「何で?」
「まだお前に教えるのは早え。…と言うより、自分で気付け。」
「え?」
意外な言葉を耳にして立ち止まったクローネに、ルドルフは改めて目を向けた。
「いつか分かる時が来るってこった。今はとりあえず、自分の目の前に山積みの課題を
ひとつずつ片付けていく事から考えな。お前の修行は、まだまだ途中なんだからな。」
「…………はあい。」
今はこれ以上、教えてもらえることはないらしい。
あきらめたクローネは、よいしょと腰を落として荷物を背負い直す。
「よし。じゃあ、さっさと帰るぜ。とりあえずのノルマ達成のご褒美だ。
帰ったら、晩飯に何でも好きなもの作ってやらあ。」
「え、ホントっ!?」
途端に、クローネはパッと顔を輝かせた。
「約束ですよ!じゃあ、早く帰りましょう!!」
言い置いて、返事も待たずに一気に駆け出す。
カチャカチャ音を立てて走るその背を目で追い、ルドルフは小さなため息をついた。
「やれやれ。やっぱりまだガキだな。」
とはいえ。
こいつは、ちゃんとサンタの能力を発現してリストを書き上げた。
あとは、成長するだけだ。
能力に見合った責任感と、強い心を身につける成長を。
それをさせるのは、俺の役目だ。
「先生、早く〜!!」
「分かってらあ!」
大声で怒鳴り返し、ルドルフは足早に歩き出した。
その影を、高く昇った月が蒼く描き出す。
クリスマスまで、およそあと7ヶ月。
決意を胸に歩くルドルフの影は、どこまでも長く伸びていた。
================【続く】===============
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